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聖夜月13日 黄金の日

《黒鱗祭に向けて②》

「すっかり黒鱗祭の装いだな」
黒い布や黒鱗のカストラスの切り絵に飾りあげられた竜の歌声亭。
「エリーがね、こういうの好きなんだ」
「お前さんはそうでもないのかね?」
「そんなことはないよ。エリーが好きなことは私も好きだよ」
なんのことはない客とゴットフリートの会話。
でも客は
「お前さんは獅子心剣王の職を辞してから、まったくエリーさんエリーさんだなあ…。
少しは夫として主導権を握りたいとは思わんのかね?」
「別に夫だからって主導権握らなくてもいいんじゃないか?」
「いやあ、意外と女は男について行きたいって言うのもいるってことよ。
おしとやかなエリーさんは主導権なんか握りたがらないだろう?」
「大丈夫だよ。ベッドでは私が主導権持っているから」
さらりと流すゴットフリート。
驚くのは客のほう。
「これだけハードな宿を運営して、やることは、やっているのか?」
「…教えないよ」
「えーっ教えてくれよー」
「お前さんが所帯を持ったら教えてあげるよ。娼館なんかに行っているうちは教えん」
「えっわかるのか?」
「匂いでわかるよ、独特の香水の匂いだ」
「この雑多な香りの中で嗅ぎわけるか」
「そうだよ。ホラホラ、フィッシュアンドチップス揚がったよ」


客たちが飲み過ぎてベロンベロンになって床に転がっている。
「じゃあガディ。二階にこいつら運んでおいてよ」
「わかりました。ゴットフリートさんは?」
「聞くのは野暮だと思ってくれ」
そう言われたガディはちょっぴり緊張した。
上に登っていったゴットフリートを思い出しながら。
夫婦の営みかなと思う気持ちを静めて。
黙々と作業を続けるガディだった。
続く

聖夜月12日 休息の日

《黒鱗祭に向けて①》

「まだ起きていたのかい?」
仕事を終え、風呂に入り、四階に上がってきたゴッドフリートは、
まだ起きていたエレオノールに声をかけた。
「ウフフ、だってもうすぐ黒鱗祭じゃない」
黒い色紙を綺麗に切り刻み、美しい黒鱗のカストラスを切り絵にしている
エレオノールは出来上がっている切り絵を楽しそうに見せてくれた。
「どうかしら?」
「いいね、エリーは、相変わらず器用だな」
「ありがとうゴット。続きはまた明日にするわ」
そう言って仲良くベッドに入る二人は、お互いの手をキュッと握って、眠りにつく。


「おーい、ゴットフリートさん。黒鱗祭にはブーダン・ノワールを振舞ってくれるんだろ?
今年の出来はどうなんだい?」
冒険者の一人が酔っ払った勢いで聞いてきた。
ブーダン・ノワールとはソーセージを作るとき、豚の血も入れたモノだ。
完成品は真っ黒でグルグル渦を巻いている。
「今年の出来はいいよ。結構数を作ったつもりだったけど、今年の冬越しのお客さんが
多いから、一人一本ずつ…ってとこだろうな」
それと共にブーイングが起こる。
「おいおい! 俺はここのブーダン・ノワール食べたさにカイロスまで来たんだぜ?
一本は少なかねーか?」
「仕方ないだろー。作っておかないといけないのはノワールだけじゃないんだから」
冒険者の愚痴などに全く付き合わないゴットフリート。
こんなことはしょっちゅうなのだ。

「見て!雪が降ってきたわよ」
その言葉に酒場にいた全員が窓の外を見た。
しんしんと降る大きな牡丹雪。

これは積もるなと誰かが言った。

「黒鱗祭はいつも雪だなー」
「カストラス様が降らしているのかもねえ…」
「静寂を好むカストラス様らしいや」
感傷的な冒険者の言葉に酒場は暫し静かだった。
続く

聖夜月11日 赤の日

《エピックホルダー③》

次の日の夕刊の一面を飾っていたのは、やっぱり一夜にして現れた氷の聖夜樹氷のこと。

「美しい聖夜樹氷の中には5色の玉が飾られており、夜になると魔力の光で輝き、
最高のデートスポットになること請け合いです。この10年一体何者が氷の聖夜樹氷を
作っていてくれているのか…。それを聞くのはきっと野暮なのでしょう」

その紙面を見てガディは嬉しくて仕方なかった。
自分はその瞬間を見届けたのだから。

「ねえ、ゴットフリートさん。今年も聖夜樹氷現れましたね」
そう嬉しそうに聞くのは、セフィロス新聞社のシェンナ。
彼女は含み笑いをして、夕飯のクリームシチューの大ぶりの具剤を美味しそうに
食べている。
「ああ、まあ、そうらしいね。良いんじゃない?そういう季節だから」
ゴットフリートの態度は無関心だ。
「私思うんですよ。社会紙面記者の仕事は真実の追求ですが、時には暴いちゃいけない
真実もあるんだろうなって」

気づいている。

彼女は、聖夜樹氷を作ったのが誰かを知っている。

ガディは息を呑んだ。
今ここで真実をさらす気はないと言っても、彼女は明日の朝刊に製作者を載せるのではないか、
もしかしたら、それをさらさないのを条件に何か聞きだそうとしているのかもしれない。

「ロマンチックですよねー、私もいつか素敵な人と聖夜樹氷を眺めながら
あったかい紅茶でも飲みたいですよ」
「シェンナさんも可愛いんだから、その気になればすぐ彼氏なんてできるって」
冒険者どもの荒っぽい注文に応じながらシェンナと話すゴットフリート。

ようやくガディは気づいた。
この街の住人はみんな、聖夜樹氷の製作者を知っていて言わないのだと。

「ガディ、石窯からピザだして。7番テーブルだから」
「はい!」

みんな、このテレ屋のエピックホルダーの起こす奇跡をわざと黙って喜び、享受しているのだ。
だったら自分もそうしたほうがいいんだと、彼は悟る。
「ピザお待ちどうさまでした!」
きっと自分も、この自然な不自然に慣れていけるだろう。
続く

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