《黒鱗祭に向けて②》
「すっかり黒鱗祭の装いだな」
黒い布や黒鱗のカストラスの切り絵に飾りあげられた竜の歌声亭。
「エリーがね、こういうの好きなんだ」
「お前さんはそうでもないのかね?」
「そんなことはないよ。エリーが好きなことは私も好きだよ」
なんのことはない客とゴットフリートの会話。
でも客は
「お前さんは獅子心剣王の職を辞してから、まったくエリーさんエリーさんだなあ…。
少しは夫として主導権を握りたいとは思わんのかね?」
「別に夫だからって主導権握らなくてもいいんじゃないか?」
「いやあ、意外と女は男について行きたいって言うのもいるってことよ。
おしとやかなエリーさんは主導権なんか握りたがらないだろう?」
「大丈夫だよ。ベッドでは私が主導権持っているから」
さらりと流すゴットフリート。
驚くのは客のほう。
「これだけハードな宿を運営して、やることは、やっているのか?」
「…教えないよ」
「えーっ教えてくれよー」
「お前さんが所帯を持ったら教えてあげるよ。娼館なんかに行っているうちは教えん」
「えっわかるのか?」
「匂いでわかるよ、独特の香水の匂いだ」
「この雑多な香りの中で嗅ぎわけるか」
「そうだよ。ホラホラ、フィッシュアンドチップス揚がったよ」
客たちが飲み過ぎてベロンベロンになって床に転がっている。
「じゃあガディ。二階にこいつら運んでおいてよ」
「わかりました。ゴットフリートさんは?」
「聞くのは野暮だと思ってくれ」
そう言われたガディはちょっぴり緊張した。
上に登っていったゴットフリートを思い出しながら。
夫婦の営みかなと思う気持ちを静めて。
黙々と作業を続けるガディだった。
続く